「生食用食肉等の安全性確保について」研修旅行での講義まとめ

過日の岩手県・秋田県へ日立食品衛生協会研修旅行で行われた講義の概要です。「人体や食品への放射線の影響について」と共に行われました。「生食用食肉の安全性確保について」です。資料を基に簡単にまとめました。間違いがありましたらコメント欄にお願いします。以下講義内容です。「

生食用食肉の安全性確保については、衛生基準通知により、適正な衛生管理について指導してきましたが、本年4月に飲食チェーン店で発生した腸管出血性大腸菌による食中毒事件の発生、および衛生基準に強制力がなく、事業者において十分に遵守されていなかったことから、生食用食肉[牛の食肉(内臓を除く)]に係る規格基準が設定され、平成23年10月1日から施行になりました。

規格基準の内容

 

(1)生食用食肉の成分規格

・生食用食肉は、腸内細菌科菌群が陰性でなければならない。

・成分規格に係る検査の記録を1年間保存すること。

(2)生食用食肉の加工基準

・生食用食肉の加工は、専用の設備を備えた衛生的な場所で、専用の器具を用いて行わなければならない。

・生食用食肉の加工は、腸管出血性大腸菌のリスク等について知識を有する者が行わなければならない。

・加工に使用する肉塊は、枝肉から切り出した後、速やかに加熱殺菌を行うこと。また、加熱殺菌に係る記録を1年間保存すること。

・肉塊の表面から1cm以上の部分までを60℃で2分間以上加熱すること。

(3)生食用食肉の保存基準

・生食用食肉は冷蔵のものは4℃以下、凍結させたものは、-15℃以下で保存すること。

(4)生食用食肉の調理基準

・設備、器具、衛生管理等は加工基準を準用する。

・調理を行った生食用食肉は、速やかに提供すること。

・生食用食肉とは、生食用食肉として販売される牛の食肉(内臓を除く)

・調理基準の対象となる食品 いわゆるユッケ、タルタルステーキ、牛刺し、牛タタキ

(5)生食用食肉の表示

・飲食店等で提供・販売する場合の表示(店舗の見やすいところ)食肉の生食は食中毒のリスクがあること抵抗力の弱い者は生食を控えること

・容器包装に入れて販売する場合の表示(容器包装の見やすい場所)食肉の生食は食中毒のリスクがあること抵抗力の弱い者は生食を控えること生食用であることと畜場の所在地の都道府県名及びと畜場の名称加工施設の所在地の都道府県名及び当該加工施設の名称

 

生食用生鮮食品による病因物質不明有症事例

最近、全国的に、食後数時間程度で一過性の嘔吐や下痢を呈し、軽症で終わる有症事例で、既知の病因物質が不検出、あるいは検出した病因物質と症状が合致せず、原因不明として処理された事例(平成21年6月から平成23年3月まで)が198件あった。提供メニューのうち生食用鮮魚介類が含まれていた事例が178件あり、多い順にヒラメ135件、マグロ73件、エビ60件、タイ51件、カンパチ48件、イカ48件。生食用鮮魚介類以外に、馬刺しが含まれていた事例が33件あった。今後は、ヒラメ及び馬刺しの寄生虫による有症事例を食中毒として取り扱う。

1ヒラメを介した有症事例

ヒラメ中の病因物質 :クドア・セプテンプンクタータ(Kudoa septempunctata)クドア属粘液胞子虫 魚類に寄生し、人には寄生せず、これまでは公衆衛生上は無害とされてきた。一般にゴカイ等を介して魚に寄生する。特定の条件化で飼育(養殖)されたヒラメが感染している。

症状 :食後数時間程度(4~8時間程度)で、下痢、嘔吐、胃部の不快感等 症状は軽度であり、速やかに回復し、翌日には後遺症もないとされている。

予防策 :ヒラメをー15℃~ー20℃で4時間以上保管。 加熱処理では、中心温度75℃で5分以上加熱。

2馬刺しを介した有症事例

馬刺し中の病因物質 :ザルコシスティス・フェアリー(Sarcocystis fayeri)住肉胞子虫 この寄生虫は犬を終宿主とし馬を中間宿主とする生活環を有し、ヒトには寄生しない。

症状 :食後数時間程度(4~8時間程度)で、下痢、嘔吐、胃部の不快感等 症状は軽度であり、速やかに回復し、翌日には後遺症もないとされている。

予防策:馬肉をー20℃(中心温度)で48時間以上、ー30℃(中心温度)で36時間以上、ー40℃(中心温度)で18時間以上。急速冷凍装置の場合はー30度(中心温度)で18時間以上、液体窒素に浸す場合は1時間以上。

」以上です。

「人体や食品への放射線の影響について」研修旅行での講義まとめ

過日の“岩手県・秋田県へ日立食品衛生協会研修旅行”で行われた講義の概要です。資料を基に簡単にまとめました。間違いがありましたらコメント欄にお願いします。

放射性物質の健康への影響

放射能の基礎知識

1 放射線・放射能・放射性物質

 放射線:物質を透過する力を持った光線に似たもの。アルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線、エックス(x)線、中性子線などがある。


(中部電力のサイトの図をお借りしました)

 放射能:放射線を出す能力

放射性物質:放射線を出す能力を持った物質

放射線・放射能・放射性物質を懐中電灯に例えると、光が放射線、懐中電灯が放射性物質、光を出す能力が放射能にあたる。

2 放射能の単位(ベクレルとシーベルト)

 

ベクレル:放射性物質が出す放射線の強さを表す単位。

シーベルト:放射線が人体に与える影響を表す単位。

ベクレル・シーベルトを光に例えると、ベクレルは電球本体の明るさ、シーベルトは光を受けた場所の明るさ。

放射線の人体への影響

健康に影響する基本的な仕組み 

“確定的影響”:比較的高い放射線量を受けた場合に現れる健康影響。被ばく後、比較的短時間で影響が現れる。健康被害が現れ始める放射線量を「閾値」(「いきち」又は「しきいち」と呼ぶ)。具体例として、「永久不妊」…急性被ばくの場合、男性は閾値 3500mSv~ 女性の閾値 2500mSv~

“確率的影響”:比較的低い放射線量を受けた場合でも現れることがあり、放射線量が高くなるにつれ、現れる確率が増えると考えられている健康被害。具体例としては、「がん」と「遺伝的影響」

放射線を被ばくする形態

 

外部被ばく:体の外にある放射性物質から放出された放射線を受けること。

内部被ばく:放射性物質を含む空気、水、食物などを摂取して、放射性物質が体内に取り込まれることによって起こる。体内に取り込まれる経路①飲食で口から(経口摂取)②空気と一緒に(吸入摂取)③皮膚から(経皮吸収)④傷口から(創傷侵入)

放射性物質の半減期

 

物理的半減期:放射性物質が放射線を放出して別の原子核に変化して、最終的に放射性物質でなくなる。元の放射性物質の原子核の個数が全体の半分に減少するまでの時間を「物理的半減期」という。例えばヨウ素131の場合は約8日、セシウム137は約30年

生物学的半減期:放射性物質が食品などと一緒に体内に取り込まれ、体内で一部血中に入り、呼気や汗、あるいは便や尿などの排泄により体外に出される。こうした過程により体内の放射性物質が半分に減少する期間を「生物学的半減期」という。例えばヨウ素131では乳児で11日、5歳児で23日、成人で80日。セシウム137では1歳までは9日、9歳までは38日、30歳までは70日、50歳までは90日。

50歳の場合、例えば、物理学的半減期が30年のセシウム137が体内に取り込まれた場合、体内に残存する量は、3ヶ月で半分に減ることになる。

放射性物質

 

自然放射性物質:地球が誕生したときから存在する放射性物質、あるいは、宇宙線の作用によって生成した放射性物質。ウラン、ラジウム、ラドンなどがある。

人工放射性物質:ガン治療などの医療目的や産業利用のために作られた放射性物質、あるいは、産業利用の過程で発生する放射性物質、また、核爆発実験によって生じた放射性物質。これにはコバルト-60、ストロンチウム-90、セシウム-137などがある。

飲食物に関する暫定規制値


(出典:消費者庁 食品と放射能Q&A より)

暫定規制値:食品の放射能濃度が半減期に従って減っていくことを前提に、このレベルの汚染を受けた食品を飲食し続けても健康に影響がないものとして設定されている。暫定規制値は、相当の安全を見込んで設定してあり、出荷停止となった食品をそれまでの間、一時的に飲食していたとしても健康への影響は心配ありません。
(出典:食品安全委員会 放射性物質と食品に関するQ&Aより)

食品からの放射能除去

食品の調理・加工による放射性物質の除去


(出典:原子力環境整備センター「食品の調理・加工による放射性核種の除去率」より)